情緒あふれる観光名所の倉敷をはじめ桃やぶどうなどのフルーツが有名な岡山県。
その中でも、歴史書にまったく記載がなく、謎に包まれた古代の山城「鬼ノ城」を知っているだろうか?
そんな桃太郎伝説の発祥の地へ向かったのは、2025年のなんだか肌寒い日が続く5月初めだった。
鬼ノ城のはじまりは大和王朝時代

大和王朝時代とは、約3〜7世紀ごろ(弥生時代末期〜飛鳥時代初期)にあたる。
「古事記」や「日本書紀」に登場する架空の人物や、実在の王権が混在する、神話と現実が交じり合った時代。
現在の奈良県(大和)を中心に豪族による支配をはじめ、やがて天皇を中心とした中央集権的な国家へと移行する過渡期にあたる。また、中国や朝鮮との交易や出兵など、対外活動も活発に展開していた。
この時代に、一切情報が残っていない謎の鬼ノ城が建設されたのだ。
鬼ノ城は吉備の穴海を見張る防衛拠点

鬼ノ城は、大和朝廷が国の守りを固めるための国家事業の1つとして建てられた。
標高397メートル、山をぐるりと塀で囲い、中の敷地面積は約30ヘクタールにもなる。東京ディズニーランドが約51ヘクタールなので、ディズニーの60%サイズくらい。東京ドームなら約6.4個分ほど。
何にしろデカい。
内部からは、建物や倉庫群・水場・のろし台、鍛冶工房などが発見されており、まさに国を守る要の場所であったようだ。

吉備の穴海は時とともに砂が溜まって平野となり、塩分に強い綿やイグサの栽培地になったことで倉敷の繊維産業の発展にも貢献している(倉敷デニムなど)。
桃太郎伝説のモデルとなった「温羅」とは

赤髪で、光る眼…?
どう考えても、遺伝子的に赤毛・碧眼が多い「アイルランド」「スコットランド」「ブリトン(ケルト)」「ヴァイキング(ノルマン)」あたりの人種では?!

いや、絶対そうじゃん!
しかし、大和朝廷時代にブリトン(ケルト)やヴァイキングが日本に到達したという確かな証拠は存在しない。
また、ヴァイキングが覇権を握っていたのは約8〜11世紀ごろまで。大和王朝が約3〜7世紀ごろ、吉備津彦命は約4世紀ごろのお方……微妙に時代が合わない。
ただ、ヴァイキングと決めれば話がおかしくなるものの、3〜5世紀ごろのピクト人やブリトン人(ケルト)だと考えればいい。
5世紀ごろにはイングランドやアイルランドから島を渡ってユーラシア大陸に来ていた証拠もある。

まったく馴染みのない異国人を見れば、当時の人には”鬼”として映ったのだ……。
そして、異端を排除するためか、はたまた本当に温羅が悪さをしていたのかは定かでないが、吉備津彦命に退治されてしまうのである。
この鬼退治が、かの有名な桃太郎伝説として脈々と語り継がれているのだ。
鬼ノ城の現地に立っている看板に、おもしろいYouTube動画へのQRコードがあったので、下記に紹介しておく。
※音が大きめなので注意

桃太郎と鬼には「吉備津彦神社」で会える

吉備津彦命をご祭神とする「吉備津彦神社」には、温羅を祀った「温羅神社」がある。


神道によれば、神の魂は「和魂(にぎみたま)」と「荒魂(あらみたま)」の2つに分類され、和魂は温和で、荒魂は荒々しい勇猛さを表す。
この吉備津彦神社には、和魂の方が祀られている。
ちなみに、この鳥居をくぐり終えたくらいから神域感(空気がピンと張りつめて少し冷たく、神聖さが充満しているような雰囲気)を感じれた。
伝説では、首塚からずっと唸り声が聞こえていたため、埋める場所を吉備津彦神社の敷地内にある御竃殿の下へ移したが、やはりうなり声は止まず周辺に13年以上も鳴り響いたようだ。
この地鳴りのような音は、吉兆を占う「鳴釜神事」の元となっている。
まとめ

伝説の鬼”温羅”と、鬼を討った”吉備津彦命”の物語の地、鬼ノ城。
桃太郎伝説は、岡山県以外にも、香川県高松、山梨県大月市、愛知県犬山市など各地に存在している。
ただ、今回訪れた「鬼ノ城」は、昔の人が異人や異端として対峙した「鬼」がしっかり存在していたような痕跡を感じられた。
もうすぐお盆休み。
この機会に鬼が住んだといわれる「鬼ノ城」にいってみてはいかがだろうか。